相続放棄の熟慮期間の起算点と伸長!錯誤無効の判例は?

 

 

相続放棄熟慮期間起算点伸長

相錯誤無効の判例は?

 

 

今回は相続放棄と、その相続放棄ができる期間のことを「熟慮期間」というのですが、その開始時点はどこなのかということについてのお話です。

 

相続放棄というのは、法律的には自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内にしなければなりません。この3ヶ月という期間のことを「熟慮期間」、つまりよく考える期間という風に呼んでいます。

 

では、あなたのお父さんが亡くなって半年後、実はお父さんには多額の借金があることが判明したというような場合に、あなたは相続放棄をすることができずに、その借金を必ず相続をしたあなたが返済していかなければならないのでしょうか?

 

スポンサーリンク

 

 

そこが問題になるわけです..

 

これについてはそうではありません。

 

例えば、あなたがお父さんと別居をしていて、財産の有無や内容について知らなかったとしても仕方ないというような事情がある場合には、「借金の存在を知った時から3ヶ月」というように、3ヶ月という熟慮期間の始まりを後ろへずらす、つまり伸長することが判例上許されています。

 

一般的には3ヶ月の熟慮期間の時期、起算点、スタート時点はあなたのお父さんが亡くなった時点や自分が相続人になった時、まさにその瞬間という風に捉えられがちです。

 

ですが、判例等によってそこの時期については若干緩和されているわけです。

 

自分が相続人であることや相続財産の内容がある程度わからないような場合には、相続放棄をすべきかどうか検討のしようもありませんので、当然判断できないと思います。熟慮のしようがないわけです。

 

ですから、ある意味当然なのですが、この知識も知っておくとよいと思います。

 

なお、どのような場合に相続放棄ができるのか、3ヶ月を超えている、1年を超えている、そういった場合に、その事案で相続放棄ができるのかできないのか、というのは細かい事情等をどう捉えていくのかということによってかなり変わってきます。

 

ということで、ご自身の親族の間で勝手に判断をするのではなく、できれば専門家に相談されることをおすすめします。

 

 

相続放棄が錯誤なら無効になる?

 

続いて、相続放棄が錯誤で無効になるということがあり得るかどうかについてのお話です。この点については、福岡高裁平成10年8月26日判決があります。

 

スポンサーリンク

 

 

相続放棄というのは、家庭裁判所に単独の行為として相続放棄の申述をするというやり方で行います。その申述について事実関係を勘違いしていたというような場合、錯誤が認められるのでしょうか?

 

この判例では、相続放棄をするにあたり相続財産のほとんどが株式であって、株式の別の持ち主が株券がないと株主の地位の主張はできないなどと主張し、さらに本人には多額の借金があって、もし相続放棄をしないと借金を背負ってしまう、借金の方が多いというような発言をしていたなどの事情がありました。

 

相続人はそれを信じて相続放棄をした結果、後になって借金はたいした金額ではなく、また株券がなくても株主の地位の主張はできるという事情が判明したという事例です。

 

この場合、裁判所は相続の放棄が錯誤無効だと認めました。このように錯誤の主張が認められたのは、実際、事実上法律上影響を受ける者から騙されて相続放棄をしたという事情が大きかったのかと思われます。

 

相続放棄をするにあたり借金が多いとか何とかいうのは動機の錯誤です。また内心の事情なので、どうして放棄をするのかということが明確になっていないと錯誤は認められません。

 

この点、誰に対して明確にしていればいいのかという問題があります。この判例では、実際に影響を受けるもの、その相手に対して動機がはっきりするということをもって錯誤の主張を認めました。このように、錯誤を認めた判例があります。

 

しかしながら、一般的に錯誤というのは重大な過失があると認められません。

 

ですから、安易な形で放棄をせずに、事実関係をきちんと調べて、人の言うことをすぐに信用せずに、客観的な裏付け資料を手に入れてから相続放棄をするのがよいと思います。

 

 

相続放棄の意思がない場合には無効になるの?

 

続いて、相続放棄の意思がない場合には無効になるという東京高裁平成27年2月9日の判例を紹介します。

 

スポンサーリンク

 

 

具体的には、「相続放棄をして受理されたものの、後からその意思がなかったということで無効だ」ということが判断された決定になります。事例としては、父親が亡くなって妻や子供や孫たちが相続人だったというケースです。

 

その中で子供たちの関係で、遺産分割の調停が申し立てられ継続していたところ、母親は相続放棄をしているのでそこから排除するという手続きの決定がされたということです。

 

それに対して母親側が不服申し立てをして東京高裁で争われたというケースになります。母親に関しては相続放棄をした後成年後見人が選ばれて、その成年後見人によってこの抗告がされています。

 

この中で母親の相続放棄は放棄の意思がなかったので無効だという判断をして、その遺産分割の調停から排除したという決定は間違いであるという判断がなされています。

 

この相続放棄が無効だと判断された理由としてあげられているのは、・・・

 

相続放棄から1ヶ月半後の状態として、母親に関して認知症の程度が進んでいて精神障害が重度であるという判断がされていること、また知能指数的には8歳程度であると判断されていること、

 

さらには成年後見の申立てがされていますが、この成年後見人選定の際の後見鑑定医としては、鑑定医が母親から聴取した内容によると「相続放棄をしたことはない」と述べていたことがあります。

 

また、相続放棄をしたときの理由として、年金収入しかないような状態なのに生活が安定しているということを相続放棄の理由としてあげていることから、そもそも財産や収入の状況を理解していなかったのではないかというような推測をしています。

 

このような相続放棄に関しては無効になるとして、遺産分割の調停を入れるべきだと判断されているので、その後には成年後見人が遺産分割の調停の当事者として入ってくることになります。

 

このような関係でよくある話として、一人に相続放棄をさせたうえで遺産分割の話をしていくということもあります。

 

ですが、高齢者を相続放棄させたときにはこのように後から無効だと判断される可能性もあります。

 

なので、精神状態がしっかりしていないような人に対して相続放棄をさせたとしても、後から後見人によって争われるというリスクがあるということを頭に入れて進めていった方がよいと思います。

 

スポンサーリンク

 

関連記事(一部広告含む)