寄与分とは?
範囲は?介護は該当するの?
前回は寄与分を控除するという制度の内容についての説明でした。今回は何が寄与分にあたるのか、寄与分の範囲についてのお話です。
実際に自分の事案に当てはめて寄与分を主張できるのかどうか、ということを判断するときに、何が寄与分に該当するのかということについての解説です。法律の条文上は何が書いてあるのかというと以下の4つです。
まず第一に労務の提供です。第二に財産の給付、第三に療養看護、第四にその他です。このような類型がなされています。そして、何が寄与分にあたるのかというところについては、これらの類型にあたるかどうかということよりも、一番に考えるべきことがあります。
というのは、どのような行為が寄与分にあたるかどうかという話について、典型的なものとして労務の提供、財産の給付、療養看護の3つがあげられているのですが、条文上も「その他」とあるように様々なものがあたり得るからです。
それでは「寄与分にあたるかどうか」についてどのように判断するのかというと・・・
まずはこうした労務の提供や財産の給付といった行為が「遺産の増加や維持に貢献したのかどうか」、これを考えます。では、「労務の提供」がなぜ遺産の増加や維持にできるのでしょうか?
これについては、例えば、母親がすでに亡くなっていて、父親と子供2人、そして父親が亡くなって被相続人のケースで考えてみます。
例えば被相続人(父親)が個人で何か家業を行っていたとします。農業や商売、職人でも構いません。そのように家業を行っていたときに、例えば長男が無休で働いていた、給料ももらわずに同居している長男がずっと働いていたとします。
そうすると、これはもし亡くなったお父さん(被相続人)が、長男ではなくて他の誰か(第三者)、例えばハローワークなどで人を募集して雇ったとします。その場合は当然給料が発生しますよね。
ということは、同居の長男が無給でずっと家業を手伝っていたということは、親からしてみれば、給料を支払わずに済んだ、遺産が減らずに済んだ、維持できたということになります。
ということで、労務の提供というのが、例えば同居の長男が給料をもらわず、あるいはほとんどもらうことなく実家の家業を手伝っていましたという場合には、「自分がタダ同然で働いた分だけ遺産が減らずに済んだんだろ」ということで、典型的なパターンになります。
次に「財産の給付」について、これは言うまでもありません。子供が親にお金をあげたということであれば、当然ぞの分だけ遺産も増えたはず、遺産が減らずに済んだはずだからです。
ということで、財産の給付というのも遺産の増加や維持に貢献したということが言えます。
寄与分の「療養看護」「その他」とは?
それでは3つ目の療養看護とは何かという話になります。例えば、お父さんが病気で自分ではトイレにも行けない、お風呂にも入れない、という場合には、本来なら一日何千円もするヘルパーやデイサービスを利用しなければいけなかったかもしれません。
ところが、同居の長男夫婦ががんばって、お父さんの下の世話からお風呂に入れたり、ご飯を食べさせたり、そういった色々な介護をしてヘルパーさんを利用せずに済んだ、その分お金が浮いたという話であれば、これはやはり遺産が減らずに済んだという考え方ができます。
それから「その他」というものには色々なパターンがあるのですが、お子さんが頑張ったからお父さんの財産が減らずに済んだというようなケースがあります。
例えばどのようなケースが考えられるのかというと、わかりやすいものとしては、「親の財産を管理してあげた」というものがあります。
これはどういうことかというと・・・
例えばお父さんが賃貸マンションを持っていましたという場合です。
お父さんが元気な頃は自分で、その賃貸アパートを掃除したり修理したりあれこれやって、家賃の回収などもやっていました。ところが、もう動けなくなって自分では自分のアパートを管理できなくなってしまったわけです。
そうなったときにお父さんはどうすればよかったのかというと、例えば不動産会社に賃貸管理をお願いすればいいわけです。ただ不動産会社に賃貸管理をお願いすると、当然のことながら管理料を取られます。
ところが、お子さんが不動産の管理をしてあげた、家賃の回収もしてあげた、掃除もしてあげた、何かあれば色々と入居者の苦情の対処などもしてあげた、そのおかげで不動産会社の管理を頼まないで済んだ、ということであれば、賃貸管理料相当の財産が遺産から減らずに済んだということが考えられます。
ちなみに、賃貸不動産から出てくる家賃や駐車料金というのは、これは不動産が生んでいるものですから、それ自体は寄与分として貢献したものではありません。
そうではなくて、お父さんが自分で管理できないときに、不動産会社に管理を任せることなく、タダで誰かお子さんが管理してあげたというのであれば、その分遺産が減らずに済んだ、「管理料相当」というのがわかりやすいと思います。
実務上非常によく問題になるのは・・・
親の扶養です。少し療養看護とは程度が違って、親の生活の面倒を色々と見てあげたというケースです。
具体的には、同居して洗濯を全部やっていたとか、同居して親の分まで長男のお嫁さんが料理を全部作っていたとか、親が外出したいと言えば車に乗ってどこかへ連れて行ったり、そういったことです。
これらはよく問題となりますし、寄与分にあたることもあります。ですが、非常に難しい問題です。なぜ難しい問題なのかというと・・・
これは特別受益と全く同じような話になるからです。つまり、寄与分というのは、「遺産の増加や維持に貢献したかどうか」だけではなくて、それが「特別なもの」でなくてはいけないからです。特別な寄与でなければならないのです。
なぜ、特別な寄与でなければいけないのかというと・・・
親子間には扶養義務があるからです。先ほどの父と子供であれば、この親子間には「親は子供を養わなければいけない」「子供は親を養わなければいけない」という義務があるのです。
そうすると、「親の生活の面倒をみました」というケースについては、「それは子供としてやるべきことを当然やっただけでしょ」というように、扶養義務を実行しただけだというように考えられるケースが多いです。
ただ、扶養型の場合に絶対に寄与分にならないかというと、そういうわけではありません。
例えば、先ほどの長男がお父さんと同居してずっと生活の面倒をみていた、一方、次男は結婚して実家から遠いところに住んでいて、もう何十年も実家に寄り付きもしない、というケースだったとします。
お父さんと同居している長男が親の面倒をみたのは、確かに扶養義務を尽くしているだけかもしれません。
ですが、扶養義務というのは子供たち双方が負っているものです。そうすると、長男だけが同居して何十年も親の扶養義務を丸抱えして、次男はずっと何もしない、これを遺産分割のときに全く考慮しないということになると不公平ですよね。
ただ親の扶養をしたからといって、それをお金に換算して遺産分割の際に寄与分の控除がすぐにできるわけではありません。あくまでも程度の問題になります。
あまりにもこれはちょっと程度として差がありすぎる、この人の負担がものすごく大きすぎる、ということであると、寄与分を認めて寄与分を控除するということがあり得ます。
まとめ
何か寄与分にあたるかということについては、「何をしたのか」という行為の問題、何か親の財産を増やしたり減らさずに済むような行為があるかということと、それが「貢献したのか」、そういう結果に結びつくようなものなのかということで考えます。
ただし、それについては何でもかんでも結び付けるというものではなく、親子間には扶養義務がありますから、例えば子供が親に貢献した場合には「それは扶養義務を尽くしただけでしょ」と言われることがあります。
ですが、扶養義務というのはお子さんたち双方が平等に負っているものですから、例えばどちらか1人だけが同居して何十年も親の面倒を丸抱えでした、他の子供は結婚して何十年も音信不通ですという場合には、寄与分として扶養というものが考慮されることはあり得ます。
実際にそういった審判例もあります。
ということで、前述したようなことを基準に、ご自分について寄与分というのが主張できそうなのか、相手から寄与分というものを主張されたらそれは寄与分にあたりそうなのか、そういったことを検討してみてください。