相続手続き
遺産分割協議書作成のための分割協議の準備は?
今回は相続の手続きについて、具体的には遺産分割協議書の準備、つまり遺産分割協議書を作るための分割協議のための準備についてのお話です。
遺言書がなかった場合や、遺言書があっても形式的に無効な場合は、相続人全員で遺産の分割について話し合って合意して遺産分割協議書を作らないと、原則的には話が前に進みません。
ただ、実はその前に相続人の確定を行わないと、そもそも「誰が集まるべきなのか」「誰を集めるべきなのか」がわかりません。
どういうことかというと、よくあるケースでは、相続人のことをよく調べない、被相続人のお子さんのことをよく調べないで、子供だけで集まってしまったということがあります。
そうすると、例えば、実は亡くなった人に認知されている隠し子がいて、その子が遺産分割協議書を作成した後に現れてまた最初からやり直しとか、行方不明の相続人がいたのに、その人を探さないまま分割した後で帰ってきてすったもんだとか、そういうことがあります。
遺産分割協議書作成のための書類とは?
どのような書類を集めるのかというと、まずは被相続人の亡くなった人の戸籍謄本です。これは、被相続人の本籍地の役場で取得します。
結婚して戸籍が変わった場合ですとか、改正されている場合、最近はコンピューター化されていますので、その場合にはその前の戸籍、改製原戸籍(かいせいげんこせき)とも言いますが、それを取得する必要があります。
その他、除籍謄本というものも存在します。例えば、北海道に本籍があった人が結婚をして大阪に戸籍を新たに作って、その後東京で生活をしてそこで亡くなった場合は、まず大阪の戸籍を取り寄せます。
その人が最後の一人であったなら除籍謄本ということになるのですが、そこで取り寄せた後その戸籍を見て北海道の戸籍を調べて、そこの戸籍や除籍、あるいは改製原戸籍があれば取ります。
この取得は出生、つまり生まれた時まで遡る必要はありませんが、実務上は子供を作ることができる年齢として13歳まで遡って取得ということになります。そして今度は、そこの戸籍に記載されている子供をたどります。
その際、子供が被相続人と同じ戸籍にいれば問題ありませんが、結婚して新たな戸籍を編さんしたりしていたらそれもすべて取得し、もし相続発生前に亡くなっていた場合は、今度はその子供の戸籍を追いかけるということになります。
代襲相続というものについて以前お話しましたがそれですね。
戸籍をたどった後は?
その後、住民票を取って連絡をして集まってもらうということをしなければなりません。自分たち兄弟、知っている人だけに連絡をして、集まってもらって話を進めて、分割してもらった後で始めて見る兄弟と称する人が現れたら初めからやり直しです。
こうなってから「どうしたらいいのでしょうか?」という話で相談に来る人も増えています。こうした書類集めは行政書士の得意とする業務になりますが、実はこうしたプロでもかなり難しくて時間がかかります。
例えば、被相続人が地上出身の人で高齢の場合、書類だけでも20枚以上の取得を要するというのが普通にあります。先代の相続の手続きをしていないというケースが多いからです。
昔は長男がすべて相続をする、これを「家督相続」と言うのですが、これが一般的でした。
ただそれが廃止されてからも実は長くそういった制度が続いていて、話し合いも何もしていない、長男が全部相続する、という暗黙の了解があって、何も手続きしていないわけです。
その場合、先代の相続人全員にまず探して連絡をして遺産分割協議書をそこで作って、その後にその次の被相続人の相続人に連絡して遺産分割の協議をするということになります。
このようなケースの場合、過去には、相続人が曾孫も入れて20人以上で書類も70通以上集めたということがありました。
相続人が行方不明の場合は?
それから、相続人のうち一人または数人が行方不明の場合です。
昨今の不況によって職のなくなった人が都会に出て、その後そのまま行方不明になってしまう、ホームレスになってしまうというケースも多く、そういった相談も増えています。この場合、その人を外したまま話し合いをしてしまいますと、協議書が無効になってしまいます。
そうすると、不動産の登記はできませんし、名義変更が必要なものがなかった場合でも、その人が生きて帰ってきた場合にはまたやり直しになってしまいます。そういうことがありますので、慎重に手続きを進める必要があります。
ちなみに、行方不明の期間が1年以上と7年以上では手続きが違います。今回は1年以上行方不明の場合の話をしますと、家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらって、その人に行方不明者に代わって話し合いに参加してもらうということになります。
一般的には利害関係のない被相続人の親族、叔父や叔母が選ばれることが多いです。
相続人が未成年者の場合は?
相続人が行方不明の場合よりも多いケースとして、相続人の中に未成年者がいるケースがあります。
通常は親が代理人となって話が進むのですが、親も相続人の場合は利害が相反することになります。これを利害が相反するといいますが、親と子の利益がぶつかってしまうのです。
なので、家庭裁判所で特別代理人の選任をしてもらって、その特別代理人に選任された人が未成年者の相続人に代わって話し合いに参加するということになります。
例えば、父が亡くなってその妻と未成年の子供が相続人になった場合、妻(母親)は子供の法定代理人にはなれません。
特別代理人を選定してその人と話し合うことになります。こうした特別代理人の選任をしないで遺産分割協議を行っても、これは無効になってしまいますので注意が必要です。
遺産分割協議書作成の注意点は?
財産のすべてを書き出しておく必要もあります。なぜなら、財産の総額がわからないと誰にどれだけいくのか、話し合いもできないからです。これがいわゆる「財産目録」と呼ばれるものです。
例えば、不動産がある場合、固定資産税の評価証明書やパソコンで取引している為替口座の残高、また銀行口座の残高を調べることが必要になってきます。
しかしながら、現実には、平日の昼間に銀行で預金の残高を調べることは普通は難しいですから、代理人や行政書士などが出向いていって調査をすることになります。ただ、どうしても相続人以外には教えないという金融機関も多いことには注意が必要です。
マイナスの財産がある場合は?
これまでは預金などの財産を分けるという話をしてきましたが、プラスの財産だけでなくマイナスの財産、つまり借金や保証人の立場もあるわけです。亡くなった人の一切を引き継ぐことが相続だからです。
よって、プラスの財産、預金や不動産が何もなくても、マイナスの財産である借金が1,000万円あったら、このような場合は借金だけを引き継いで自分の財産が減ってしまうということにもなりかねません。
このような場合に「何か打つ手はないか」という相談も多く寄せられています。
相続は引き継ぐこともできますが、実は引き継がないということもできます。ですから、プラスとマイナスを比べてプラスが多いときだけ引き継ぐ、という都合のいい制度もあります。それが単純承認、相続放棄、限定承認です。
■単純承認:プラスの財産とマイナスの財産の全てを引き継ぐ
■相続放棄:相続財産を一切引き継がない
■限定承認:相続財産がプラスのときのみ引き継ぐ
ただ相続放棄の場合は、貸した人から言えば、返ってくるはずのものが却ってこないということになります。また、限定承認はプラスの財産が多いときだけ相続するという、相続人にとって非常に都合のいい制度です。
なので、いずれにも厳しい要件があって、できる場合とできない場合がありますので注意が必要です。