遺留分減殺請求の方法と時効!
生前贈与と遺留分割合!
今回は、遺留分減殺請求の方法と時効についてのお話です。
まず遺留分というのは、たとえどのようなことがあっても相続できる民法が保証する最低限度の相続分のことです。具体的には、法定相続分の1/2あるいは1/3が保障されています。
ただし、遺留分は、兄弟姉妹、相続放棄者、相続廃除者、相続欠格者、遺留分放棄者には認められていませんので注意が必要です。
例えば、相続人が配偶者と子供2人で、全相続財産が6,000万円だったとすると、法定相続分は配偶者が3,000万円、子供が1,500万円となります。
そして、配偶者と子供の遺留分は法定相続分の1/2が認められていますので、配偶者は1,500万円(3,000万円×1/2)、子供は750万円(1,500万円×1/2)となります。
遺留分とはどのようなことがあっても相続できる相続分です。
ですから、遺留分権利者(遺留分を有している相続人)がいるのにもかかわらず、例えば遺言書に「全財産を妻に相続させる」と書いてあったり、特定の相続人だけが財産の大半を独り占めするような場合には、遺留分の侵害を受けた遺留分権利者は、遺留分相当額を請求することができます。
これを専門用語で“遺留分減殺請求”と言います。
遺留分減殺請求には時効があるの?
とはいえ、この遺留分減殺請求には“時効”があります。
具体的には、相続開始および減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から1年間、もしくは相続開始から10年間が経過すると時効期間が消滅します。
わかりやすく言うと、遺留分減殺請求は、相続開始あるいは遺留分の侵害が発覚した時から1年以内にしなければならないということです。
ちなみに、仮に相続開始を知らなかったとしても、相続開始(被相続人の死亡)から10年が経ってしまうと遺留分減殺請求ができなくなってしまいますので注意してください。
遺留分減殺請求の方法は?
遺留分減殺請求は、遺留分の侵害を受けている遺留分権利者が遺留分を侵害している人に遺留分減殺請求書を送ることからスタートします。
一般的には、この遺留分減殺請求書は配達証明付きの内容証明郵便で郵送します。
次に当事者間で話し合いを進めていくことになりますが、話し合いがまとまらず決着がつかない場合には、調停や裁判に発展することもあります。
ちなみに、遺留分減殺請求は、専門家に依頼するのが必須というわけではありません。話し合いがスムーズに進むようならわざわざ専門家に依頼しなくてもOKです。
ただ、話し合いが長期化しそうだという不安があるのなら、弁護士など専門家に間に入ってもらうことをおすすめします。
遺留分と生命保険金の関係は?
続いて、遺留分は生命保険に掛けている金額によっては変わってくるというお話です。
前述のとおり、遺留分とは、たとえどのようなことがあっても相続できる民法が保証する最低限度の相続分のことです。ただ、遺産総額が同額で相続人構成が同じであっても、遺留分に差が生じることはあります。
これは、単に全相続財産といっても、相続税の計算の際と遺産分割協議の際とでは、財産の線引きが異なるからです。
具体的には、相続税の計算をするときには、被相続人が直接所有していた財産である預貯金や不動産などと、みなし相続財産である死亡保険金などを合計した金額から、控除できるものを差し引いて相続税の計算をします。
ところが、遺産分割協議では、みなし相続財産を除いた財産だけで行うことになるからです。これは、みなし相続財産というのは相続税の課税対象となりますが、相続人固有の財産だからです。
わかりやすく事例で説明しますと・・・
例えばAさんの相続財産は自宅が3,000万円、預貯金が2,000万円、株式が1,000万円、これプラス3,000万円の生命保険に加入しているとします。
つまり、相続財産6,000万円(3,000万円+2,000万円+1,000万円)に加えてみなし相続財産が3,000万円ありますから、相続税の計算ではこれらを合算した9,000万円(6,000万円+3,000万円)を基準として考えます。
これに対して、遺産分割協議では、みなし相続財産を除いた6,000万円だけで話し合いを進めることになります。相続人は子供3人とすると、法定相続分は2,000万円(6,000万円÷3)、遺留分は1,000万円(2,000×1/2)となります。
一方、Bさんの相続財産は自宅が2,500万円、預貯金が1,500万円、これプラス5,000万円の生命保険に加入しています。なので、4,000万円(2,500万円+1,500万円)の相続財産プラス、みなし相続財産が5,000万円となります。
相続税の計算ではこれらを合算した9,000万円(4,000万円+5,000万円)を基準に考えますが、遺産分割協議ではみなし相続財産を除いた4,000万円のみで考えます。
相続人はAさんと同様3人とすると、法定相続分は約1,350万円(4,000万円÷3人)、遺留分は約675万円(1,350万円×1/2)となります。
このように、Aさんの相続人とBさんの相続人では、遺留分に300万円以上の差が生じることになるのです。
つまり、AさんとBさん、みなし相続財産の額は同額ですが、みなし相続財産の占める割合が異なることから、法定相続分や遺留分に変化が生じるのです。
遺留分の金額に差が生じると相続時にどんな影響があるの?
全相続財産の内みなし相続財産の占める割合が多ければ多いほど、遺留分は少なくなります。
ということは、“特定の相続人に対する財産の取り分を少なくしたい!”という場合には、みなし相続財産の割合を増やして、遺留分を減らせばよいということになります。
実際にどのようにすればいいのかというと・・・
例えば、相続人が子供2人(AとB)で、Aは近くに住んでいるのにも関わらず、身体の不自由な親の面倒を全く見ることがなく、それを見かねたBが遠方から来て自分の介護をしてくれたことから、Aには財産を渡したくないというケース。
あるいは、特定の相続人Aのみに生前贈与をしたため、相続のときにはAの取り分を少し我慢するように伝えているが、腑に落ちない様子なので、自分の死後共同相続人との間で揉めないか心配であるというケース。
このようなケースでは、遺留分の減らす対策が最低限度の相続分を減らすことで可能となります。特に相続廃除(推定相続人からの相続権剥奪)が認められなかったケースにおいて非常に有効です。
原則として死亡保険金は相続人固有の財産とみなされます。つまり、遺産分割協議の対象外です。ですから、特定の相続人以外の相続人に掛け金を多めに設定することは法律的には何ら問題ありません。
ただし、これはあくまでも原則論であって例外もあります。
例外とは?
例えば、全相続財産およそ1億円のほぼすべてがAさんを受取人とする死亡保険金で、共同相続人Bは相続財産をほぼもらえないというケースで、Bさんがそれに不満を持ち裁判にまで発展したケースがあります。
これについて、東京高裁はAさんが受け取ったおよそ1億円の保険金を特別受益に準ずるものとして、“持ち戻し計算の対象となる”と判断しています。
ちなみに、持ち戻しの計算というのは、公平や遺産分割を担保するための制度です。このケースは、相続財産のほとんどが死亡保険金であるというやや特殊なものですから、これに該当するケースは高くないでしょう。
このケースのように億単位での差はあまりにも極端すぎますので、生命保険金にこうした差をつけるのは避けたほうが無難です。
ということで、親の面倒を見なかったとか、生前贈与があったとか、色々な事情はあるかと思いますが、相続分に差を出したいのであれば、やはり相続人全員が納得できるような理由を明記した遺言書を準備しておくのが得策です。
まとめ
遺留分というのは、兄弟姉妹、相続放棄者、相続廃除者、相続欠格者、遺留分放棄者以外の相続人に対して認められている、たとえどのようなことがあっても相続できる最低限度の相続割合のことを言います。
遺留分割合は、直系尊属(親など)なら法定相続分の1/3、それ以外は法定相続分の1/2となります。また、“遺留分減殺請求”といって、遺留分の侵害を受けた遺留分権利者には、遺留分相当額を取り戻すことのできる制度があります。
これは当事者間での話し合い、あるいは調停や裁判によります。
この遺留分減殺請求は、相続開始および遺留分の侵害を知った時から1年間、あるいは相続開始から10年経つと時効が消滅します。この期限には特に注意が必要です。
さらに、遺留分は法定相続分を基準にして計算していきますから、みなし相続財産を除いた金額で求めることになります。つまり、相続財産の内みなし相続財産の割合が多いほど、相続人の遺留分は減少していくこととなります。
といことで、このみなし相続財産の割合を増やす方法は、特定の相続人の財産の取り分を少なくさせたい場合に有効です。
ちなみに、相続廃除(推定相続人からの相続剥奪権)を相続人Aに対して申請したけれど、“親の面倒を相続人Bにだけ押し付けた”という理由だけでは受理されなかったケースがあります。
親の面倒を見てこなかったという程度では、相続廃除が認められる確率は低いですから、こうしたケースでみなし相続財産の割合を増やす方法を活用するのがおすすめです。
一方で、みなし相続財産を含めた全相続財産の内、相続人Aを受取人とする死亡保険金がほぼ100%を占めていたため相続人Bの遺留分がゼロになってしまい、これが裁判にまで発展したケースもあります。
この裁判では、死亡保険金は持ち戻し計算の対象となると判断されています。つまり、遺産分割の対象となるとされてしまったのです。
原則としては死亡保険金は相続人固有の財産なのですが、これはあくまでも原則です。この事例のように例外もありますから注意が必要です。
このケースはあまりにも極端でしたが、死亡保険金にあまりにも差をつけすぎると、かえってトラブルの原因にもなりますので気を付けたいものです。