小規模宅地等の特例の適用要件!
家なき子と評価減と贈与..
今回は所有権の移転について、相続または遺贈によって所有権を移転するというお話です。
つまり、亡くなる前はお父さんが持っているまま、あとは相続として遺産分割をしましょうというパターンですね。このときに遺言や死因贈与契約、遺産分割協議というやり方で、財産の承継を誰にするのかを決めます。
遺産を分割するパターンとしては3つ考えられます。
3つの遺産分割パターンとは?
1つは、遺言を書くことです。遺言を書いておけばお父さんなりお母さんなりの意思が反映されて、子供にその財産が承継されるというのが遺言のパターンです。
2つ目は、死因贈与契約です。死因贈与契約というのは、贈与契約なのですが、具体的には「私が死んだらお前にこの財産をあげるよ」というような契約のことです。これもお父さんの意向がそのまま反映されますから素晴らしい遺産分割になります。
3つ目は、遺言もない死因贈与契約もない場合に、遺産分割協議ということで、相続人が集まって協議をします。
ですが、遺産分割協議というのはなかなかうまくまとまりません。そこで、何らかの方法で遺言を書くか、もしくは死因贈与契約を結ぶかというルートさえ付けておけば、大事な財産の承継ができます。
特にここで申し上げたいのは、小規模宅地等の特例があるということです。
小規模宅地等の特例とは?
小規模宅地の特例とは、居住用財産に関して330uまでの部分について80%ほど評価が減少して2割だけで課税されるという特例です。
今回は居住用財産に絞って説明していきます。平成26年は240uまででした。特定の居住用財産の宅地の要件に当てはまれば、ある一定のu数、平成27年からは330uと増えましたが、減額割合が80%とともに80%減額できる特例となっています。
この小規模宅地等の特例を使う場合には、要件がたくさんあります。大きく分けると2つあります。
小規模宅地等の特例の適用要件とは?
1つは、この財産を取得する人に限定、制約があります。
誰でもいいですよというわけにはいきません。お父さんが住んでいればいいというわけではないのです。この財産を誰が取得するかということでフィルターがかけられています。
もう1つは、その財産分けの時期に制約があります。
いつまでに財産を承継しなければいけないかという非常に細かい規定があります。例えば、一次相続のパターン、一般的にはお父さんの方が平均寿命が短いですから先にお亡くなりになるのですが、一次相続のパターンは5つほどあります。
実務上、あまりこれは困りません。お母さん、つまり配偶者が取得すればOKですからね。お母さんが取得されればOKということで、一次相続の場合は大体クリアします。取得者についてはクリアします。
二次相続は?
続いて、今度はもう一つの二次相続というパターンが出てきます。つまり、お母さんが亡くなったときどうなるのかというと、今度は子供しかいませんから、これが時として問題になります。これが二次相続の問題です。
一次のお父さんが亡くなった後お母さんが相続します。そして今度はお母さんが亡くなった相続の場合、この二次相続の場合に適用できるパターンは3つしかありません。
1つ目は同居の親族です。
お母さんと同居をしていた子供が相続する、取得するという場合です。この場合、原則として申告期限までに取得しなければなりません。なので、ここで財産分けでもめているとこの適用がありません。つまり、期限の問題もあるということです。
また、取得者の要件もあります。まず第一は同居の子供、それからその次の2番目は生計を一にしていた場合です。
つまり、お母さんが住んでいて同居はしていないのだけれど、その子供がお母さんと一緒の生計、お母さんの面倒を子供がみている、その生計を一にしている子供が取得したという場合です。
これもOKです。もちろんこれも申告期限までにその登記をしなければなりません。ですから、取得者が明確にならなければいけません。それからもう一つパターンがあります。それは「家なき子」のパターンです。
小規模宅地等の特例の家なき子とは?
これは日常用語ではないと思いますが専門用語です。「家なき子」とは家を持たない子供が、そのお母さんが住んでいた家を相続するというパターンになります。どういうことかというと・・・
相続開始前3年以内に自分の住居がないという子供のことです。つまり、逆に考えると、自分の住居を持っていれば資格がないということです。どんなにがんばってもダメということです。
よくあるケースとしては、実家から離れて東京で働いていて、子供がマンションを買ってしまった、そして相続開始3年以内にそのマンションに住んでいるというものがあります。こうしたケースの場合は、特例が一切使えません。
ですから、これは条件をクリアしなければいけないのですが、この場合は取得を待つ、お母さんが亡くなってから取得をするという方法があります。
それから逆に、一旦取得をしてしまうと子供が住んでしまうとまずいわけです。なので、自分の家なのですが子供が住まないでそれを人に貸す、自分たちも賃貸住宅に入居するということです。自分の持っている住宅に住んでいなければ大丈夫なのですから。
かなりの工夫が必要になりますが、原則は家がない子供でなければいけません。家を持っている子供はいくら取得してもその小規模宅地等の特例ができないということですからね。
ここは少し注意していただかなければならないのですが、割とよく見られるケースになります。
ということで、お母さんが暮らしていて子供がもう独立して、子供がもう東京、大阪方面に出て家を取得したというような場合には、原則として小規模宅地等の特例は適用できないということになりますから注意が必要です。
取得の時期は?
先ほどから取得の時期があるというお話をしてきましたが、原則は前述のとおり相続税の申告期限までに登記を切り換えなければいけません。
しかしながら、例外があります。申告期限から3年以内に取得者が決まれば、先ほどの要件を満たす取得者が決まれば、これは遡って適用が受けられます。
ですが、そんなことをするのではなくて、できれば前述のとおり、遺言を書いてスマートに承継者を決めておく、あるいは死因贈与契約をしておいてやはりこれもスマートに対象者を絞りこんでおくというのが生活の知恵かなと思います。
ちなみに、遺贈というのは耳慣れない言葉ですが遺言です。遺言による財産の承継を遺贈と呼んでいます。
それからもう1つの贈与ですが、亡くなることを原因として贈与を行うということですから、「私が死んだらあなたにあげよう」という贈与契約です。
もちろん健在のときに贈与契約を調印するのですが、この死因贈与契約は非常に優れています。個人的にはこの死因贈与契約をおすすめします。
遺言と死因贈与契約の違いは?
死因贈与契約が遺言とどのように違うのかというと・・・
遺言の場合は原則として一定の財産、全体的な財産のルートを決めてしまわなければいけないということで、お父さんが意外とついつい決めかねてしまうのです。全体の財産の承継者を決めようとするとなかなか難しいですからね。
ですから、先延ばし、後で後でと言っていて何も書き残さずに亡くなってしまうということになりがちです。
よく考えてみると、不動産とか居住用財産は特定の人にもうほぼ決めることはわかっていますから、わかっていれば財産とあげる相手が決まっていれば贈与契約はいつでも結べるのです。
とりあえず預金は誰が承継するのか、株式は誰が承継するのかということは置いておいて、抜き出してその不動産だけ、特に今小規模宅地等の特例の適用財産を抜き出したいと考えているわけですから、そうすると自宅はどうするのか、自宅は長男にあげると決まっているのなら、長男に限定してこの死因贈与契約を結んでおけばいいのです。
契約をしたときには贈与は発生していません。契約は存在しますが実際に贈与が起きるのは、お父さんお母さんが亡くなってからになります。つまり、これは相続税の課税対象なのです。
ですから、贈与の時には1円も負担がかかりません。契約書のみ取り交わします。もちろん公正証書にしていただくのが一番いいです。公正証書で死因贈与契約という契約を結んでもらいます。
死因贈与契約というのは、死亡を条件に財産を与える契約です。当事者が合意すれば破棄することもできます。
ということで、一旦死因贈与契約を結んでおいたけれどやっぱりやめようという場合には、両当事者が合意すれば可能です。
その後遺言でもっても、それは遺言することによっても契約は破棄することができるという風になっていますので、いくらでも訂正することはできます。
死因贈与契約を結んでおきましょうとすると受け取る相手は決まります。そうすると期限もはっきりしますからこの小規模宅地等の特例の適用が非常にスムーズかつスマートに行うことができます。
ということで、できれば道筋をつけていただいて、遺言ができれば一番よいので遺言でまとめてしまう、あるいは遺言ができない場合には死因贈与契約を結んで、これは当事者間だけでいつでも調印できますからこれを仕上げておくということになると非常にスマートな財産承継が可能になります。
死因贈与契約は遺言書よりいいの?
世の中にはこの死因贈与契約を勧めないで遺言のみ、例えば信託銀行などは遺言ばかりを勧めていたりしますが、遺言をしても実はその財産は刻々と変わっています。
例えば、定期預金がなくなって株式になったり、あるいはまたそれを処分して不動産になったり、どんどん変わっていきます。
ですから、遺言をすればいいように思うのですが、これは実はメンテナンスが必要になるのです。遺言書を作成したら終わりというのではなくて、遺言書を作成してもまた何年か経つと財産内容が変わってきますから、また見直ししていかなければいけないのです。
ということで、それらを加味して考えますと、死因贈与契約というのは非常に有効な処理方法だといえるのです。
しかも遺言の場合は、お父さんが亡くなったときはあまりもめません。あまり家族がもめることはなくて、実はお母さんがいらっしゃるので、お母さんが議長になってコントロールします。お母さんの目の前で子供がもめるケースというのはほとんどありません。
それなのに、世の中的にはお父さんに遺言を書きなさいとお父さんに遺言を書かせるわけですが、実際にはお母さんの遺言が本当はいるのです。
そういったこともわからずに、とにかく遺言を書けばいいんだねということで書いていらっしゃるわけですが、なかなか後でメンテナンスも大変だということもあります。
まとめ
小規模宅地等の特例を使いたいなという場合、同じ相続をするのなら評価額が大幅に減ります。例えば居住用財産で5,000万円の評価が出たら80%ディスカウントですから4,000万円ほど控除が受けられます。
ですから、小規模宅地等の特例は使わないと損です。
ただし、この特例を使うためには前述のとおり取得者の制限がありますからそれを選別すること、そして取得する期限が決まっていますからスムーズな分割ということを心掛けていくこと、これが必要になります。
そのために、遺言なり死因贈与契約を結んでおけば完璧です。