銀行預金は遺産分割対象になるの?
最高裁の判例は?
今回は相続時における銀行預金の取り扱いについてのお話です。すでにご存知かもしれませんが、2016年末に最高裁で「銀行預金が遺産分割対象になるか否か」が争われました。
さて、どのような経緯からこのような問題に発展したのでしょうか?また結局、銀行預金は遺産分割の対象になるのかならないのでしょうか?
ではまず初めに、この裁判の判決が出る前の相続時における銀行預金の取り扱いからみていきます。
従来の相続時の銀行預金の取り扱いは?
一言でいうと、かつては「相続時における銀行預金は遺産分割の対象ではない」とされていました。
ちなみに、これは昭和29年に下された判決によります。遺産分割協議の対象とならないという抽象的な表現ではわかりづらいと思いますので、まずは用語の解説をします。
相続時における銀行預金が遺産分割の対象とならないというのは、わかりやすく言うと、「遺産分割協議をわざわざする必要はない」ということです。
もう少し具体的に言うと、亡くなった人、つまり被相続人の銀行預金は他の相続財産とは違い、相続開始をもって当然に相続分に応じて各相続人の固有の財産になるということです。
例えば、被相続人が父親、相続人が配偶者と子供2人の場合で、銀行預金が2,000万円あるとすると・・・
銀行預金についてわざわざ遺産分割協議をしなくても、当然に法定相続分に応じて、配偶者(母)が1/2の1,000万円、子供たちがそれぞれ1/4の500万円を、半ば自動的に相続することができるというわけです。
つまり、遺産分割協議をするに及ばないといった解釈になるわけです。ただ、特別受益や寄与分についての考慮はどうなるの?と思われたかもしれませんね。実は前述の2016年末に最高裁で争われたのがこの点についてなのです。
実際にどのような経緯で最高裁まで持ち込まれたの?
さて、この裁判上の登場人物は、被相続人のAさん、Aさんの妹Bさん、Bさんの子Cさん、Aさんの弟の子Dさんです。BさんとDさんは、Aさんと養子縁組をしています。
Aさんの相続が発生すると、相続人はAさんと養子縁組をしているBさん、同様にAさんと養子縁組をしているDさんになります。
しかしながら、Bさんはすでに亡くなっていましたので代襲相続が発生し、Bさんの子Cさんが相続人となりました。つまり、相続人はCさんとDさんとなるわけです。
Aさんは3,800万円の預金を残して亡くなっています。従来の考え方なら遺産分割協議をしなくても、預金についてはCさんとDさんがそれぞれ半分、1,900万円(3,800万円×1/2)を相続できるということになります。
ですが、ここでDさんから「待った」がかかりました。
これはなぜかというと、Aさんの生前にAさんからCさんに生前贈与が行われていたからです。その額は5,500万円でした。つまり、「これではいくらなんでも不公平ではないの?」といったことから始まった裁判だったのです。
何となくおわかりいただけたのではないかと思います。
結局、裁判はどのように進んでいったの?
前述のとおり、この裁判では生前贈与を受けた相続人とそうでない相続人が銀行預金を折半で相続するのは不公平だと提起したことがきっかけで始まった裁判でした。最高裁まで争われたということは、一審、二審に不服があったため長期戦の裁判になったということになります。
一審の家庭裁判所と二審の高等裁判所では従来の考え方に則り、預金は相続によって当然に分割されるので遺産分割の対象外とし、銀行預金については遺産分割の対象外という判決を下しました。
そして最高裁へ上告した結果、下された判決は「共同相続された普通預金債権、通常預金債権及び定期預金債権は、いずれも相続開始と同時に相続分に応じて分割されることはなく遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」というものでした。
これはどういうことかというと…
預金に関しては相続開始をもって当然に分割されるのではなく、相続人同士で共有状態という解釈が適当であるため遺産分割の対象になるということです。つまり、遺産分割協議が必要となるということです。
従来の考え方ですと、被相続人が残した3,800万円の預金は、相続人AとBでそれぞれ1,900万円ずつ相続するということになります。
ですが、今回の判決によって預金は遺産分割の対象になりますので、Aさんが生前贈与を受けた5,500万円は特別受益として考慮されます。なので、おそらく3,800万円の預金についてはBさんが全額相続することになるはずです。
この裁判により相続の進め方も大きく変わってくると思います。
預金が遺産分割対象になるという判決は今度どのような影響を及ぼすの?
続いて、預金が遺産分割対象になることによってどのような影響が発生する可能性があるのか、についてのお話です。一言でいうと手続きを進めるのが多少面倒になるかもしれません。預金についてのことなので、一番の問題は金融機関の対応になります。
従来でしたら、「預金については相続開始をもって相続人の相続分に応じて当然に相続される」という考え方でしたから、法定相続分を限度に、相続人個人が自由に預金を引き出せていました。
しかしながら、今回の判決によりそれができなくなります。
つまり、遺産分割協議がなかなかまとまらないと、相続開始後に必ず必要となってくる葬儀費用や相続税の納税資金が被相続人の財産から支出できなくなるということです。おそらくここが一番のデメリットになると思われます。
相続が開始され資金面で慌てないようにするためにも、相続開始後に支出用にまとまった現金を残しておいたり、被相続人が遺言書において遺言執行者を指定し現金の引き出しを可能にしておいたりと、対策を講じておく必要があります。
もう1つのデメリットは・・・
遺産分割協議が長引く可能性があるということもデメリットとしてあげられます。従来は預金以外の相続財産が遺産分割対象となっていましたが、今回の判決によって現金を含めたすべての相続財産が遺産分割対象になりました。
なかなか遺産分割協議がまとまらないと、相続税の申告や納税期限を過ぎてしまうことも大いにあり得ますので注意が必要です。