遺留分減殺請求権の時効は?|価額弁償と遺産分割協議申し入れ..

 

 

遺留分減殺請求権時効は?

価額弁償と遺産分割協議申し入れ..

 

 

今回は、遺留分減殺請求権と取得時効についてのお話です。

 

まず、遺留分減殺としての要件を満たす贈与を受けた人、つまり被相続人の死亡前1年間または遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与ということになりますが、そういった要件を満たす贈与を受けた人が贈与に基づいて目的物の占有を取得し、10年とか20年といった期間、平穏かつ公然にこれを継続し取得時効を援用したとしても、贈与に対する減殺請求による遺留分権利者への目的物についての権利の帰属は妨げられない、という判断をした最高裁判決があります。

 

これは平成11年6月24日の最高裁判決になります。最高裁がどう言ったのかというと…

 

前述したように、「被相続人がした贈与が遺留分減殺請求の対象としての要件を満たす場合には、遺留分権利者の減殺請求により贈与は遺留分を侵害する限度において執行し、受贈者が取得した権利はこの限度で当然に遺留分権利者に帰属するに至る。」

 

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これは、遺留分減殺請求の効果になりますが、こうした考え方がすでに最高裁判決で確定しています。

 

この考え方から、受贈者が贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法162条所定の期間平穏かつ公然にこれを継続し取得時効を援用したとしても、それによって遺留分権利者への権利の帰属が妨げられるものではないと判断しています。

 

 

なぜ?その理由は?

 

その理由として、民法は遺留分減殺によって法的安定が害されることに対して、一定の配慮をしているからです。例えば、前述したような「相続開始前1年間にした贈与」というのを遺留分減殺の対象になるということにしています。

 

それから、贈与の減殺は後の贈与から前の贈与に対して順次していくとされています。

 

また、遺留分減殺請求権の行使というのは、相続を開始してから減殺される遺留分減殺の対象となる贈与等がされていたということを知ってから1年というようにされています。こういった法的安定性というのを配慮しています。

 

一方で、遺留分権利者に損害を与えることを知ってなされた贈与については、1年より前であっても、それが減殺請求の何年前にされたものであるかを問わず減殺の対象となるとしています。

 

これが遺留分減殺請求権の要件なわけですが、これが1つの理由になっています。もう1つの理由は、遺留分権利者の利益です。

 

「占有を継続した受贈者が贈与の目的物を時効取得し、減殺請求によっても受贈者が取得した権利が遺留分権利者に帰属することがないとするならば、遺留分を侵害する贈与がされてから被相続人が死亡するまでに時効期間が経過した場合には、遺留分権利者は取得時効を中断する法的手段のないまま、遺留分に相当する権利を取得できない結果となる。」

 

ということを、第二番目の理由として最高裁は挙げています。それでは民法はどのように考えているのかということですが、最高裁は以下のように言っています。

 

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「遺留分減殺としての対象としての要件を満たす贈与の受贈者は、減殺請求がされれば贈与から減殺請求までに時効期間が経過したとしても、自己が取得した権利が遺留分を侵害する限度で遺留分権利者に帰属することを容認すべきであるとするのが民法の趣旨である」

 

このように最高裁は判断しています。それで結論として、受贈者の取得時効の援用は認めないという判断をしています。

 

つまり、10年とか20年前に贈与されたという事案であっても、遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされたものということであれば、取得時効の援用はできないということです。そういった場合には、遺留分減殺請求権の行使ができます。

 

 

遺留分減殺請求と価額弁償について

 

続いて、遺留分減殺請求を受けるよりも前に遺贈の目的を譲渡した受遺者が、遺留分権利者に対してすべき価額弁償の額の算定について判断された事例を紹介します。

 

これは平成10年3月10日の最高裁判決です。

 

最高裁がどのように言ったのかという前に、民法1040条1項という規定があるのですが、この規定では、減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲渡したときは、遺留分権利者に対してその価額の弁償をしなければならないということを定めています。

 

この規定について、遺留分権利者が減殺請求権を行使するよりも前に、減殺を受けるべき受遺者が遺贈の目的を他人に譲り渡した場合に、類推適用されるのかどうかという問題があります。

 

この点について、最高裁判決は類推適用されるとしています。そして、譲渡の当時譲受人が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた時を除き、遺留分権利者は受遺者に対してその価額の弁償を請求し得るにとどまるという判断を示しています。

 

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さらに、その価額の算定について、最高裁は次のように判断しています。

 

「弁償すべき額の算定においては、遺留分権利者が減殺請求権の行使により当該遺贈の目的につき取得すべきであった権利の処分額は、客観的に相当と認められるものであった場合には、その額を基準とすべきである。」

 

要するに、価額弁償すべき額というのは、譲渡の額がその当時において客観的に相当であると認められるときには、その価額を基準として算定すべきであるという判断を示しているのです。

 

ということで、こうした場合にも、価額弁償しかできないということにはなりますが、その請求はできるということになります。

 

 

遺留分減殺と遺贈の目的価額の算定方法は?

 

続いて、相続人に対する遺贈とその目的の価額をどのように算定するのか、ということが判断された事例を紹介します。これは、最高裁平成10年2月26日の判決になります。最高裁はどのように言ったのかというと…

 

「相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては、遺贈の目的の価額のうち、受遺者の遺留分を超える部分のみが民法1034条にいう目的の価額に当たる」

 

このように判断しています。この民法1034では、遺贈はその目的の価額の割合に応じて減殺すると規定しています。

 

つまり、その目的の価額というのは、受遺者の遺留分額を超える部分のみであるという判断がなされたわけです。最高裁はその理由として、次のように言っています。

 

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「受遺者も遺留分を有するものであるところ、遺贈の全額が減殺の対象となるものとすると、減殺を受けた受遺者の遺留分が侵害されることが起こり得るが、このような結果は遺留分制度の趣旨に反する。」

 

そして、このことは・・・

 

「特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言による当該遺産の相続が、遺留分減殺の対象となる場合にも同様に解すべきである。」

 

遺言で相続をさせるというように書かれてあることが多いわけですが、そういった場合でも、前述のような算定の仕方をするという判断を示しているのですね。遺留分の額というのは、財産とか遺贈の有無、内容によって複雑になることがあります。

 

そういった場合に、どれだけの遺留分減殺ができるのか、その価額はどうなのか、ということについては、弁護士など専門家に相談されることをおすすめします。

 

 

遺産分割協議申し入れと遺留分減殺の意思表示について

 

続いて、「遺産分割協議の申し入れに遺留分減殺の意思表示が含まれている」と判断された事例について紹介します。これは、平成10年6月11日の最高裁判決になります。最高裁はまずどのように言ったのかというと・・・

 

「遺産分割と遺留分減殺とはその要件・効果を異にするから、遺産分割協議の申し入れに当然遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない」

 

と判断しています。そして、これが原則です。しかし、例外があるということで、最高裁はどのように言ったのかというと・・・

 

「被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには、法律上遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申し入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申し入れには遺留分減殺の意思表示が含まれている」

 

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という判断をしています。この件は、被相続人が相続人の一部に全財産を遺贈したという事案なのですが、受贈者以外の相続人は、遺贈の効力自体は争っていません。また・・・

 

「普通郵便をもって遺留分減殺に直接触れるところはないか、少なくとも遺産分割協議をする意思に基づきその申し入れをする趣旨で普通郵便で送ったということは明らかであるから、特段の事情も認められないし、普通郵便による受贈者以外の相続人の遺産分割協議の申し入れには遺留分減殺の意思表示が含まれている」

 

と判断しています。ということで、こういった事案があったら、仮に遺留分減殺の意思表示を明確にしていなかったとしても救済される場合があるということになります。

 

 

遺留分減殺請求で取得した不動産の登記請求権と消滅時効について

 

遺留分減殺請求により取得した不動産の所有権に基づく登記請求権は消滅時効にかかるのでしょうか?これについて判断された事例について紹介します。これは平成7年6月9日の最高裁判決です。最高裁はどのように言ったのかというと・・・

 

「遺留分権利者が特定の贈与につき減殺請求をした場合には、受贈者が取得した所有権は遺留分を侵害する限度で当然に遺留分権利者に帰属することになる」

 

と述べています。これは過去の最高裁判決であって、そういった物件的にも遺留分権者に権利が帰属するというものです。

 

この前提から、遺留分権利者が減殺請求により取得した不動産の所有権または共有持分権に基づく登記手続き請求権は時効によって消滅することはないと判断しています。

 

ということで、遺留分権利者が減殺請求をした場合、不動産の登記手続き請求というのは早めにした方がいいわけですが、仮に少し時間が経ってしまったという場合でも登記手続きはできますので、こうした例があったら弁護士など専門家に相談されることをおすすめします。

 

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