遺産分割協議書の注意点
署名捺印(押印)前の確認事項とは?
今回は、遺産分割協議書に署名する前に確認しておくことについてのお話です。相続の相談では、この遺産分割協議書に関する相談がかなり多いです。ここでは、よくある相談事例を使ってわかりやすく解説していきます。
お父さんが亡くなって、相続人がお母さんと長男、長女、次女のケースです。
次女からの相談で、相続が発生してしばらくした後、長男から手紙が送られてきました。手紙の内容は、遺産分割協議書を送ったので、すぐに署名をして実印で捺印をして、印鑑証明書を付けて長男のところへ送り返すようにというものです。
こんな手紙が来たら不安になりますよね。遺産分割協議書というタイトルの書面自体も、もしかしたら初めて目にするのかもしれません。印鑑証明書とともに、本当にお兄さんに送り返していいのだろうか、不安になる人も多いと思います。
そのようなときは、署名捺印する前に以下の3つのポイントを確認するようにして下さい。
遺産分割協議書に署名する前の確認事項とは?
1つ目は、遺言書の有無確認です。
そもそもお父さんは生前遺言書を残していなかったでしょうか?遺産分割協議というのは、亡くなった人の遺産の分配について、相続人全員の話し合いで、どのように分配するのかについて決めるものです。もし遺言書があれば、遺産についての分割協議は不要です。
というのは、生前に遺言書で「このように遺産を分けなさい」という内容の遺言書があるのですから、この遺言書が優先して、これに基づいて手続きが行われていくからです。
遺言書は資産家だけのものだと思われがちですが、最近は多くの人が遺言書に興味を持たれて残されているケースも多くなっています。遺言書があるかないか、まずは確認してみて下さい。
2つ目は・・・
お父さんに借金はないかの確認です。相続というのは、不動産や預貯金などの遺産だけではなく、借金のような負債も同時に相続人は相続することになります。
なので、借金の方が多ければ相続放棄を検討し、相続放棄を家庭裁判所に申し立てる必要があります。相続放棄をすると、当然相続人ではなくなりますので、遺産をもらうことはできませんが、借金を負担する必要もなくなります。
ただし、この相続放棄は、亡くなってから3ヵ月以内に家庭裁判所に申し立てをしないといけないのですが、この3ヵ月の間に、相続人が相続人として遺産分割協議書を作成し、遺産についての分配方法について協議をしてしまうと、相続放棄はできないことになります。
つまり、遺産についてどのように分配するのか話し合いが成立したということは、全ての財産、もちろん借金を含めて相続をしたということになるので、相続放棄は認められないのです。
ですから、あわてて遺産分割協議書に署名する前に、必ずお父さんに借金がなかったのかどうか、確認をしてから署名捺印するようにして下さい。
3つ目は・・・
法定相続分や遺留分は気にせず、相続人それぞれが納得するまで署名しないということです。
法定相続人である母や子供たちには、法律で法定相続分というのが決まっています。配偶者は1/2、子供たちは全員で1/2、3人兄弟ならそれぞれ1/6ずつの法定相続分があると法律で決められているのです。
遺産分割協議はこの法律で決められている法定相続分とは関係なしに、どのようにして遺産を分配するのか、相続人全員で話し合いをするものなので、そもそも法律の持分を気にする必要がないのです。
一方、遺留分というのは、たとえ遺言書があったとしても、奪うことができない各相続人の最低限度保証された持分のことです。なので、協議をするということは、遺言書がないということですから、遺留分というものを考える必要がないのです。
つまり、相続人全員が遺産の分配について、法定相続分や遺留分の割合にとらわれることなく、全員の意思が合致すれば、分配の内容は自由に決めることができるということです。
「あなたさえ納得すれば、わたしの持分はゼロ、お兄さんが全部相続してもいい」という遺産分割協議書にサインしても構いません。どんな内容で遺産分割協議を成立させるのかは、相続人全員が納得するということが大切です。
なので、もしお兄さんから遺産分割協議書に署名捺印して印鑑証明書を付けて送り返してくれという手紙が来ても、その内容に納得していないのであれば署名捺印はしないで下さい。
そうはいっても、送られてきた遺産分割協議書に、本当に自分で署名捺印してもいいのか不安だと思います。そんなときには、相続登記の専門家である司法書士に相談されるとよいと思います。
遺産分割協議書には全ての遺産を書くの?
例えば、不動産の相続手続きなどであれば、それを書くというのが実務上あります。これはどういうことかというと、一部分割協議書という位置づけになります。実務上は登記などでもこうしたことはあり得ます。
ただ、基本的に遺産分割協議というのは、把握している全ての遺産について協議することになりますので、それでまず全体的なものがあることになります。
また、登記用とか手続き用とか、そういったもので一部分割協議書を作成したりもします。ただ、まずベースになるのが全体的な遺産で作成していくということになります。
もちろん、亡くなった人の財産すべてを把握しきれないということもあります。
そのような場合には、それが出てきたら改めてするというケースもありますし、あるいは、実務上は後から見つかった財産が大きいものでなければ、「○○が後から見つかった財産は相続する」というのを最初の分割協議書に折りこんでおくのが基本的なパターンになります。
ちなみに、概ね旦那さんが亡くなった場合には、奥さんが後から見つかった財産は相続しますというケースが多いです。ということで、基本的に分割協議書には、故人の財産を全体的なものは書くということになります。